1907年のニューオーリンズ
かつて愛用していたHPが運営会社の都合だとかいう理由で消えてしまった。だからといって別になんてこともないと思っていたが、ちょいとたしかめたいことが生じた際など、メモを見る感覚でHPを当たることができなくなった。無くなってみて改めて思うが、あの確認法はあれでなかなか便利だったのだ。それが、いま、もうできない。
で、保存してあったものに限られるが気が向くままにすこしずつ再録しておくことにした。
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デイヴィド・フルマー著『快楽通りの悪魔』(CHASING THE DAVIL'S TAIL 新潮文庫)を読んだ。1907年のニューオーリンズを舞台にした犯罪小説の傑作だ。殊更にマークしていたわけでもなく、まさにたまたま読み始めた文庫本なのだが、いやぁ読んでよかった。独特に面白かった。
訳は田村義進さん。落ち着いた文章が、ひたすら真面目に、丁寧に、暑くしめった歓楽街を描出してゆく。
ニューオーリンズのミシシッピ川沿いに有名なフレンチクォーターがあり、その北側の奥がストーリーヴィルと呼ばれる歓楽街。娼婦の館が軒を連ね、酒とアヘンがはびこり、猥雑で暴力的で、銃撃事件は毎晩のように起こるという典型的な“悪所”である。
物語は、4月のある夜、評判の娼館で19歳の娼婦が殺され、主人公の私立探偵が調査に乗り出すところから始まる。
死んだ娘の裸の胸には黒い薔薇がおいてあり何やらいわくありげ。その後、4人ぐらいの娼婦が殺されるけれど、その現場にも枝つきの黒い薔薇がある。
ヴァレンティン・サンシールという名のこの私立探偵は覚えておくといい。なぜなら、この作品は著者のデビュー作ながら、いきなり2002年度PWA(アメリカ私立探偵作家クラブ賞)最優秀処女長編賞を受賞。ジェフリー・ディーヴァーが絶賛したとか、物語の暗黒度合いがジェイムズ・エルロイをしのぐとか讃辞が降り注いだ。で、一読すると、それらの評価がまちがっていないことがわかるのである。
著者はストーリーヴィルものの連作を目論んでいるらしく、そうなるとヴァレンティン・サンシールの活躍がたのしみになる。少なくともあと2作は刊行されると後書きにある。
いかがわしさは人を惹きつける。
だからストーリーヴィルには各層の人々が集まり、歓楽の盛り上げ役として音楽があり、こうしてストーリーヴィルにジャズが生まれた。
このミステリーは、ジャズ発祥期の歴史そのものが背景となるセミドキュメンタリー小説でもあるのだ。
とにかく、ヴァレンティンの親友にバディという男が登場。これが何と、ジャズの創始者とされるあの伝説のコルネット奏者チャールズ・バディ・ボールデンのことなのである。文中にある、彼の火を吹き上げるような演奏シーンがすごい。要注目。また、ジャズの語源とされるフランス語の動詞「ジャゼ」について描写する賑わいのシーンも興味深い。
あるページには、一瞬だけ、少年時のルイ・アームストロングが出てくる。
そんなこんな、ジャズファンには見逃せないミステリーだ。 washiroh 04/07/16 09:53
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